モラハラ被害者が加害者から嘘つき呼ばわりされる理由
今回は「モラハラ被害者が加害者から嘘つき呼ばわりされる理由」について解説します。
被害者自身には嘘をついた認識がないのに、モラハラ夫から「お前は嘘つきだ」と責められ、何が嘘なのか理解できない、こうした相談が多く寄せられています。
特にASDの夫とADHDの妻という組み合わせで、この問題が頻繁に見られます。
発達障害のうち、ASD(自閉スペクトラム症、旧アスペルガー症候群)は、論理的思考やルールへのこだわりが強く、記憶力も優れています。
一方、ADHD(注意欠如・多動症)の人は、ワーキングメモリーの弱さから忘れっぽく、物事を先延ばししがちです。
診断を受けていなくても、発達特性の「グレーゾーン」に該当する人は多く、厚労省の発表では発達障害の診断者は約48万人、潜在的には800万人いるとされています。
一般的に「モラハラ=治らない」と言われがちですが、近年では加害者・被害者のどちらか、または両方に発達特性が関係しているケースが多いことが分かってきました。
発達特性を理解し、適切に対応することで、改善の可能性も広がります。
モラハラ夫の「過剰な怒り」「偏った思考」はASDの特徴に、被害者妻の「忘れっぽさ」「先延ばし」「フリーズして反論できない」などはADHDの特徴に該当することが多く、記憶のズレや認識の違いが誤解を生むのです。
この問題について、私自身もASD・ADHD混合型の診断を受けており、実体験を通じて深く理解しています。
これから、我々の支援者の皆さんの実体験も交えながら「嘘つき呼ばわりされる理由」と「効果的な対処法」について詳しく解説していきます。
少し長くなりますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
※関連テーマ「モラハラ夫が嘘をつく理由と対処法」も、ぜひ合わせてお読みください。
この記事はこんな方におすすめです
- 夫との生活がしんどい方
- 夫と離婚をすべきか検討中の方
- モラハラ被害者の方
もくじ
- ASDの特徴と「嘘つき」呼ばわりの原因
- ASDが相手を嘘つき呼ばわりする理由
- ADHD妻の特徴と「嘘つき呼ばわり」される要因
- ASDとADHDの特性が引き起こすコミュニケーションの難しさ
- 反射的に返事をしてしまう理由
- 安請け合いをしてしまう理由
- 先延ばしをしてしまう理由
- 反論ができない理由
- ASD夫への全般的な対処法
- まとめ
ASDの特徴と「嘘つき」呼ばわりの原因
ASDの夫がADHDの妻を「嘘つき」と責める背景には、記憶力の違いがあります。
ASDの夫は記憶力が優れており、ADHDの妻は忘れっぽいため、夫は「なぜ覚えていないのか」と責め、嘘をついていると誤解することがあります。
ASDの記憶力の特徴
ASDの人は短期記憶やワーキングメモリーよりも、長期記憶が優れています。
情報は膨大に蓄積され、まるで巨大なデータベースのように整理されています。
また、興味の有無に関わらず、見聞きしたことを無意識に記憶し、一度覚えたことを忘れにくい特徴があります。
ADHDの忘れっぽさの原因
ADHDの人が忘れっぽいのは、ワーキングメモリー(脳の一時的な記憶の置き場・作業場)が弱いためです。
この機能が低いと「考えたことを保持しながら別の作業を行う」ことが困難になります。
具体的には
ワーキングメモリが弱い事例
- さっきまで使っていた物の置き場所を忘れる
- 別の作業を始めると、直前の作業を完全に失念する
- 口頭で頼まれたことが、別の人と話すうちに頭から抜け落ちる
この特性は情報処理の遅れにもつながり、PCに例えると「CPUやメモリが低スペックな状態」に近いものです。
結果として、頭の中で情報処理が追いつかず「フリーズ状態」に陥りやすくなります。
フリーズ状態になると
- 外界からの情報が一切入らない
- 質問の内容自体を記憶できない
- 夫に怒られたことすら覚えていない
さらに、ワーキングメモリーは記憶だけでなく感情も保存する役割を担います。
ADHDの人はこの機能が弱いため、ネガティブな出来事をすぐに忘れる傾向があります。
皮肉なことに、この特性がモラハラ夫との関係を継続させてしまう一因になっているとも言えます。
ASDが相手を嘘つき呼ばわりする理由
ASDの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 過去に固執する
- 自分のルールや正しさにこだわる
- 他人のミスに厳しい
過去に固執する
ASDの人は未来を予測したり想像したりすることが苦手な一方で、過去の出来事を鮮明に覚えています。
例えば、幼少期の出来事や昔の知人の名前を詳細に記憶し続けることがあります。
自分のルールや正しさにこだわる
ASDの人は変化を嫌い、一度覚えたルールを頑なに守ります。
また、自分の常識を世間の常識と捉え「正しい知識を教えている」という感覚で指摘を行うことがあります。
他人のミスに厳しい
長期記憶が優れているため、相手の過去のミスを覚えており、繰り返し指摘することがあります。
正義感が強く、自分のルールや価値観に反する行動を許せないため、相手の間違いを執拗に指摘することもあります。
また、指摘することが相手のためになると考え、善意で行っている場合が多いですが、相手の気持ちを読み取るのが苦手なため、不快にさせていることに気づかないこともあります。
ADHD妻の特徴と「嘘つき呼ばわり」される要因
ADHD妻には、以下のような特徴があります。
ADHD妻の特徴
- 反射的に返事をしてしまう
- 安請け合いをしてしまう
- 先延ばしをしてしまう
- 反論ができない
これらの特徴により、ASD夫はADHD妻が自分の言うことを受け入れたと誤解しやすいのです。
例えば
- 反射的な返事 → 「理解した」と勘違いし、「約束を守るはずだ」と思い込む
- 反論しない → 「意見に同意した」と受け取り、自分の考えが認められたと信じ込む
しかし、ADHD妻はそもそも意識的に約束をしたわけではなく、単に流れで返事をしただけだったり、後になって忘れてしまったりします。
結果的に、ASD夫が期待する行動をADHD妻が取らないことで「嘘をついた!」と非難されるのです。
このようなすれ違いが繰り返されることで、ASD夫は「ADHD妻は信用できない」と思い込み、ADHD妻は常に「嘘つき」の烙印を押されることになります。
ASDとADHDの特性が引き起こすコミュニケーションの難しさ
ASD夫とADHD妻の間では、お互いの特性によって誤解が生じやすい状況があります。
では、なぜこのような誤解が起きてしまうのでしょうか?
本来、コミュニケーションでは、一方が「相手に伝わっていないかもしれない」「適当に返事をしただけでは?」と感じた際、その都度質問や確認を行い、適切な表現で伝え直すことでズレを減らせます。
しかし、ASDとADHDの脳の特性上、これらの調整機能が十分に働かないため、誤解が生じやすくなります。
ASDの特性
- 言葉の背景や文脈を読み取るのが苦手
- 非言語コミュニケーション(表情・声のトーン・仕草・空気感)を理解しにくい
- 相手の感情が分かりにくい
- 言葉をそのまま字義通りに受け取る
- 質問されるとパニックになりやすい
ADHDの特性
- 注意力が散漫で人の話を十分に聞けない
- ワーキングメモリが弱く、自分の話した内容を忘れる
- 思考が次々と変わる(脳内多動)
- 話題がすぐに変わる
- 意見や感情の言語化が困難
- 結論から話すのが苦手で、時系列でダラダラ話しがち
- 要点を絞るのが苦手で、話がまとまりにくい
このように、ASDとADHDの特性が重なることで、コミュニケーションのズレが生じやすくなります。
ADHDの脳内多動により、話題が次々と変わることでASD側が混乱し「話の筋が見えない」「何を言いたいのか分からない」と感じることがあります。
また、ADHD側は自分の意見がまとまらず、簡潔に伝えるのが難しいため、ASD側は「結局、どういう意味?」と確認を求めることが増え、それが誤解につながることもあります。
こうした相互の特性を理解し、適切な対応を取ることで、コミュニケーションのすれ違いを減らしていくことが重要です。
次に、ADHD妻が取る行動の理由と改善方法を説明します。
反射的に返事をしてしまう理由
簡単に言えば、ASD夫から頼まれたことに対して、適当に返事をしてしまうため、結果的に嘘つき扱いされることが原因です。
これは、衝動性とワーキングメモリの弱さが影響しています。
例えば、反射的に「ハイ」と返事をした時点では意識があるものの、その後、不注意によって返事をしたこと自体を忘れてしまうことがあります。
また、無意識のうちに衝動的に反応し「返事をしたこと自体を覚えていない」ケースもあります。
そのため「○○やっといて」と言われて「ハイ」と答えたものの、実際には何もやっておらず、結果的に嘘をついたとみなされてしまうのです。
さらに「○○のライブに行く?」と聞かれて衝動的に「行く!」と答えたものの、実際には予定が入っていて行けないこともあります。
このようなズレが積み重なり、ASD夫から「嘘をついた」と誤解される原因になります。
対処法
まず、自分が無意識に衝動的な返事をしてしまっていることを自覚することが重要です。
つまり「自動で返事をしている状態」から「意識的に返事をする状態」へ切り替える感覚を持つことが大切です。
これを意識するだけでも、反射的な返事は減っていくはずです。
また「○○のライブに行く?」のように、すぐに判断できない質問には「あとで確認してから返事するね」と即答を避けるクセをつけましょう。
こうした習慣を身につけることで、誤解されることが減り、ASD夫からの嘘つき扱いも防げるようになります。
安請け合いをしてしまう理由
端的に言うと、ASD夫から頼まれたことを、結果的にできないのに「できる」と答えてしまうため、嘘つき呼ばわりされてしまいます。
では、なぜADHD妻はこの行動を取ってしまうのか。それは、ADHDの特性である衝動性と前頭葉の機能の弱さが関係していると考えられます。
前頭葉の機能が弱いことで「マルチタスクが苦手」「自分の許容量を正しく把握できない」「断ると失礼ではないかと過剰に気にしてしまう」といった傾向があり、頼み事をされた際に深く考えずに返答してしまうのです。
例えば「〇日までにこれをやってくれる?」と聞かれ、衝動的に「うん、大丈夫!」と答えたものの、結果的にまったく手をつけられなかったというのは、ADHDの人にありがちな失敗です。
また、マルチタスクが苦手なため、依頼されたタスクを同時進行しようとして頭が真っ白になり、ミスや抜けが発生したり、どのタスクも中途半端になることもあります。
さらに、衝動的に行動してしまい、言われたこととは違うことをやってしまうケースもあり、これらも夫から「嘘をついた」と非難される原因になります。
対処法
このような安請け合いを防ぐためには、まず依頼されたことに即答しないことが重要です。
一旦冷静になり、自分のスケジュールや現在のタスク量を考えた上で、対応可能か判断しましょう。
また、スケジュールや作業工程を具体的に整理し、本当に対応できるのかを可視化することも大切です。
特にADHD妻に多いのが「頼まれると断るのが苦手」「断ると相手に悪い気がする」といった心理から、その場で「いいですよ」と言ってしまうケースです。
しかし、できなかった場合に責められるのは自分です。
自分を守るためにも、その場で安易に引き受けるのは避けた方がよいでしょう。
先延ばしをしてしまう理由
端的に言うと、ASD夫から言われたことを後回しにするため、嘘つき扱いされてしまいます。
先延ばしの主な原因は、注意力の欠如、衝動性、計画性の不足にあります。
ADHDの人は集中力を持続させるのが難しく、特に長時間の作業や複雑なタスクに取り組むのが苦手です。
また、衝動性の影響で目の前の誘惑に反応しやすく、重要なタスクが後回しになりがちです。
さらに、計画性の不足から具体的な進め方を考えるのが苦手で、やるべきことが明確でない場合、特に先延ばしが起こりやすくなります。
「今やらなければいけない」というプレッシャーにも弱く、一時的にストレスから逃れるために先延ばししてしまうこともあります。
この行動は、仕事の締め切りに間に合わないだけでなく、風呂に入るといった日常的な行動の遅れにもつながり、生活全般に影響を及ぼします。
その結果、自己評価の低下や不安感の増大を招き、うつ状態の原因にもなりかねません。
ADHD妻の場合「部屋を片付ける」と言って片付けない「風呂に入る」と言いながら寝てしまう(いわゆる風呂キャンセル)「家に帰ったらする」「後でする」と言って結局やらないなど、先延ばし行動が頻繁に見られます。
これらはASD夫にとって理解しがたく「また嘘をついた」「もう期待しない」といった非難につながってしまいます。
対処法
まずタスクに優先順位をつけましょう。
緊急性や重要度で整理し、紙やスマホのメモに書き出し、いつでも確認できるようにしておきます。
次に、タスクを細分化することが大切です。
作業にかかる時間や配分を現実的に考え、できるだけ細かく分けることで、最初の一歩が踏み出しやすくなります。
また、タスク管理をスマホなどで行い、完了したものを消していくことで、今やるべきことを常に把握できる状態にしましょう。
この方法により、脳の前頭前野にある「ウィルパワー(意志力)」の消費を抑えることができます。
ウィルパワーは集中力の源ですが、日常生活での選択や決断によって消費され、集中力が低下します。
特にADHDの人は不注意や衝動性の影響で定型発達の人よりも集中力が続きにくいため、ウィルパワーの消費を抑えることは、タスク処理や先延ばしの改善において重要です。
反論ができない理由
ASD夫から「◯◯しろよ」と言われた時に反論できない、もしくは黙ってしまう背景には、ADHDの特性である「言語化の困難さ」が大きく影響しています。
ADHDの人は、話しかけられてもすぐに言葉が出ません。
これは、ワーキングメモリが低く、会話中の情報量が多すぎて処理が追いつかないためです。
自己理解においても課題があります。
自分が何を好み、何を嫌うのか、現在の体調や疲労度、そして自分の感情や希望を明確に把握できないため、相手に伝えることができません。
その結果、フラストレーションが蓄積されやすくなります。
ストレス処理も同様に困難です。
定型発達の人はストレス要因を言語化し、理解して対処できますが、ADHDの人は言語化能力の低さから、ストレスの源泉を特定し、適切に管理することが難しいのです。
さらに、幼少期からの経験も大きな影響を与えています。
言語化が苦手なため、周囲の人が察して助けてくれることが多く、このパターンが繰り返されると、困難な状況でも自ら伝えようとしなくなります。
また「自分の考えは相手にも自然と伝わるだろう」という誤った思い込みも生じやすくなります。
職場などで日常的にこのような状況が続くと「話を聞いていない」「なぜわからないの?」「言っていることが理解できない」といった否定的な経験を重ねることになります。
結果として、相手に「自分の気持ちを伝えることへの恐怖」「叱責される不安」「理解されない懸念」が強まり、さらに言いたいことを言えない状況に追い込まれていきます。
このような悪循環は、うつ病や社交不安障害のリスクを高めることにもつながります。
対処法
まず黙って何も言わない状況は避けるべきです。
ASD夫は、黙ることを肯定や同意と見なすからです。
ASD夫が一方的に話してきて言いくるめると、頭がフリーズしたりパニックになったりして言葉が出ない場合は、まず「怒るのは止めて」「冷静に話してくれる?」と落ち着かせることが重要です。
その上で、言葉が出にくい場合は「今は結論や意見が出てこないから、後で一人で考えて伝えるから、それでいい?」と、自身の状況とASD夫に対する回答の意思を伝えましょう。
ASDの特性上、感情や言外の行動の理解が難しいため、パニック状態を言葉で具体的に説明する必要があります。
言葉で伝えることで、ASD夫は妻の状況を理解し、自身の一方的な対話に気づき、最終的に建設的な対話が可能になります。
ASD夫への全般的な対処法
ミスコミュニケーションの主な原因は、お互いの言葉の定義の違いにあります。
ASDの特性により、言葉や状況の解釈が定型発達の人とは大きく異なることがあるのです。
言葉の定義の違い
「出かける準備をして」という指示一つをとっても、ASD夫と定型発達の妻では解釈が全く異なります。
ASD夫は「自分の出かける準備をすれば良い」と考えますが、妻は「自分と家族の出かける準備をすること」を期待します。
これは、ASDの特性である他者視点の欠如から生じる本質的な認識の差異です。
対処法としては、言葉の定義が異なることに気づいたら、具体的に取って欲しい行動を明確に伝えることが重要です。
ASDは抽象的で曖昧な表現を理解できないため、詳細で具体的な指示が不可欠なのです。
認識の違いによるコミュニケーションの誤解
「会った」「知っている」といった一見シンプルな言葉でさえ、ASDと定型発達の人では全く異なる意味を持ちます。
例えば「同じ会社の◯◯さんと会ったことある?」という質問に対し、一般的には「実際に話をした」ことを意味しますが、ASDの人は単にすれ違っただけでも「会った」と認識します。
同様に「このドラマ、知ってる?」という質問で、タイトルを聞いたことがあるだけなのに「知っている」と答えます。
これらの発言は、ASDなりには事実に基づいた正直な回答なのです。
ただし、言葉の背景や意図を読み取れないため、誤解を生みやすくなります。
コミュニケーションを改善するためのポイント
最も重要なのは、具体的で明確な質問をすることです。
「◯◯さんに会ったことある?」ではなく、「◯◯さんと実際に話をしたことがある?」のように、確認したい内容を具体的に質問することで、コミュニケーションのズレを減らすことができます。
このアプローチにより、ASD夫との誤解を減らし、互いの理解を深めることができるでしょう。
まとめ
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
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