妻と娘に教育虐待を行っていたモラハラ夫が改心するまで
今回は、妻と娘に教育虐待を行っていたモラハラ夫が改心するまでの過程を説明します。
相談事例
夫は40歳で、職業は税理士。
妻は38歳で、3人の子どもを持つ専業主婦(長男8歳、長女5歳、次女1歳)。
妻は結婚前は塾講師として働いていましたが、結婚を機に専業主婦となりました。現在、家のローンや子どもの教育費の負担が増していることから、復職を希望していますが、夫はそれを許さない状況でした。
結婚当初から夫によるモラハラがありましたが、最近は長女へのモラハラがひどくなり、妻は耐えきれず実家に避難し別居になりました。
このまま夫のモラハラが改善されなければ、離婚も視野に入れており、裁判も辞さないとのことで、相談に来られました。
妻は夫に対して「あなたが自身の加害性と向き合い、改心できたなら復縁を考えるが、それができないなら離婚し、復職して子どもたちを自分が養っていく」と伝えました。
夫は離婚を望んでおらず、妻とのやり取りはLINEに限定されていました。
別居中の妻は心身ともに疲弊しているため、夫からの連絡は基本的に私たちリジェネを通して行うようにと要望され、夫婦関係改善講座を受講することになりました。
※プライバシーに配慮して本人特定できないように一部改変しています
※本人の了承確認済※
この記事はこんな方におすすめです
- モラハラ被害者の方
- モラハラ加害者プログラムの受講を検討されている方
- モラハラ夫の加害者更生の流れが知りたい方
もくじ
- 長女へのモラハラの事例
- 妻へのモラハラの事例
- 夫の言い分
- プログラム開始当初の夫のLINEの文面
- 夫の加害者変容の流れ
- 夫の吐露した感情と背景
- 行き過ぎた愛情の歪みがモラハラになっていたことに気づいた
- 夫婦関係の再構築について
- まとめ
長女へのモラハラの事例
夫からの日常的なモラハラについて、思い出せる部分を具体的に教えてもらいました。
おもちゃや食べ物に関するモラハラ
夫は、子どもが決められた場所におもちゃを片付けないことに激怒しました。
片付け場所にラベルを貼り、その通りに片付けていないと、容赦なくおもちゃを捨てていました。
また、食べ物についても「ポテトチップスやチョコレート、グミなどはバカになるから食べてはいけない」と禁止し、ハンバーガーなどのファーストフードも「頭が悪くなる」として禁止しました。
おやつは蒸したさつまいものみでした。
メディアや娯楽に関するモラハラ
YouTubeについても「見ているとまともな大人になれない」「YouTuberなんて犯罪者だ」「社会不適合者になるから絶対にダメ」「頭のいい人はそんなものを見ない」として完全に禁止しました。
教育に関するモラハラ
幼稚園児の娘に対して、掛け算や割り算を強要し、できないと「なぜできないんだ?俺は幼稚園の頃には普通にできていたぞ」と責め立てました。
問題が解けるまで娘を夜遅くまで寝かせず、娘が泣くと「説教部屋」に連れて行って正座をさせて夫が望む反省の言葉を言い終わるまで寝かせませんでした。
塾通いの否定
娘への教育虐待がエスカレートする中、妻は夫の管理から娘を少しでも引き離すために塾通いを提案しましたが、夫は「俺は塾に行かなくても優秀だった」「塾はバカが行くところ」「金と時間の無駄」「塾の講師なんて未熟者の集まりだ」として完全に否定しました。
そして「俺の言うことだけを聞いていればいいんだ」と娘に強制しました。
服装に関するモラハラ
長女がおしゃれに目覚めてきたため「髪を巻きたい。スカートを履きたい。お化粧をしたい」と言うと、夫は「そんな売女みたいな恰好は絶対にダメだ」「襲われたらお前は責任を取れるのか?」と妻に怒鳴りました。
妻が「私は幼少期からおしゃれが好きだったし、周りの女の子もしてるよ。年相応の恰好であればいいんじゃないの?」と説明しても、夫は「それはお前の周りの一部に過ぎない。娘が襲われない証明にはならない」と全く聞き入れませんでした。
妻が「それこそ証拠にも根拠にもならない」と指摘すると、夫は「うるさい」「お前が責任を取れるのか!」と逆ギレし、怒鳴り散らしました。
その後、夫は数日間妻を無視することもありました。妻は夫との言い争いを避けるため、夫の前では娘はスカートを履かせることは出来ません。
妻へのモラハラの事例
夫は典型的な理数系の思考を持ち、ルールに厳格で融通が利きません。
日常的に家事や生活に対して細かくチェックし、妻を厳しく責めることが常態化していました。
掃除や埃の指摘
例えば、コンセントの上にわずかに埃が溜まっていると「火事になったらどうするんだ?」「家が火事になってもいいというのか?」「お前の母親の教育が悪いからこんなことが起きるんだ」などと矢継ぎ早に責め立て、妻を説教しました。
洗面台やトイレの便器についても、掃除が十分にできていないと厳しく指摘。
食器の片付け
食器をすぐに洗わないと「なぜ放置するんだ?」「コップが傷んだらまた買えばいいと思っているのか?その金は誰が出していると思っているんだ?」と詰め寄り、妻の行動を非難しました。
「何度も同じ失敗を繰り返すのは学習能力がない証拠だ」などと、謝っても許すことはなく、夜中まで説教を続けました。
夫の行動は次第にエスカレートし、日常生活の全般に対して厳しい指摘が増え、妻が夫の帰宅時間が近づくと動悸や呼吸困難を感じるようになり、夜も眠れないほど心身共に追い詰められていきました。
夫の言い分
「なぜ妻や長女に対して、このような発言や行動を繰り返してきたのか?」との質問に対して、夫は次のように答えました。
夫の言い分
「妻は世間知らずで無知なバカなので、そんな妻でも理解できるように指導していただけです。私の言っていることは、ネットで調べればわかるように、論理的でかつ科学的に正しいことです。」
長時間の説教についても「妻が何度も同じ失敗を繰り返すし、理解力が低すぎるので、何度も言わないといけないんです。妻が一度で理解できれば、こんなことをする必要もないのに。むしろ、あいつのせいでこっちが寝不足になるんです」との主張でした。
長女については、「自分の子どもなのに全く勉強ができないなんてありえない。うちの家系は親兄弟も全員優秀で、バカは一人もいない。それに比べて、これはきっと妻の家系の血筋のせいだと思う」と述べました。
また、自分の行動がモラハラだなんて到底受け入れられない。
俺が子どもの頃はもっと厳しく言われていたし、親父から殴られることも普通にあった。
それをせずに正しい指摘をしているだけなのに、今の世の中は何でもかんでもモラハラだと言って揚げ足を取ろうとしてくる。
この風潮には本当に辟易していると吐き捨てるように語りました。
プログラム開始当初の夫のLINEの文面
夫は、妻が子どもを連れて家を出たことについて、次のようにメッセージを送っています。
夫のLINEの文面
「とりあえず、私に連絡もなく、勝手に子どもも連れて出て行ったので、精神的にかなり参っています。仕事もまともに手につかないし、何もやる気が起きません。もしかしたら、うつ病かもしれません。」
「私の言い方があなたにとってキツかったのかもしれませんが、もしそうなら今後は言い方を改めます。」
「ただ、あなたは専業主婦なのに家事や育児についてどう考えていますか? 私は家族に良い暮らしをさせるために、どんなにしんどくても休まず全力で働いています。あなたは家事や育児に全力で取り組んでいますか? もしそうなら申し訳ありません。もしかしたら、私の考える『全力』と、あなたの考える『全力』が違うだけかもしれませんね。」
「子どもの教育についても、私は何よりも子どもの幸せを優先して行動してきました。子どもは未熟であり、ある程度の年齢までは自分で考えることができないため、適切な指導が必要です。適切な指導があれば、子どもは自分で考えられる力を身につけられるようになるのです。私が行った行動は、子どもに対する適切な指導であり、必要な対応だと思っています。」
このメッセージは、表面上は謝罪を示しているように見えますが、実際には上から目線の高圧的な内容であり、妻の言っていたモラハラの実態を裏付けるものでした。
夫は、自身の行動を正当化し、妻に対して責任を転嫁する姿勢が見受けられ、これがモラハラの典型的なパターンであるといえます。
夫の加害者変容の流れ
加害者プログラムは、基本的に3ヶ月間で行われます。
このプログラムでは、まず怒りの感情を吐き出させ、その後、怒りを引き起こした事象について「どの部分に怒りを感じるのか?」や「その光景を見てどう思うのか?」といった質問を通じて、事象に関連する感情や本音(一次感情)を明確化します。
先に怒りを吐き出す理由は、いきなり内部感情との対話を促す質問をすると、対象者が責められているように感じ、緊張状態に陥って自我を防衛しようとするため、対話がうまく進まないからです。
このアプローチを取ることで、対象者が自分の内面と対話しやすくなり、自己理解を深めることが可能となります。
さらに、このプロセスでは対象者の幼少期からの未解決の問題にも焦点を当て、内部対話を促進させます。
場合によっては、未解決の感情の処理も行います。
このような専門的な心理療法は、適切な訓練を受けたカウンセラーによってのみ提供でき、自助グループでは到達できない領域です。
夫の吐露した感情と背景
娘がおもちゃを片付けないことやお菓子・YouTube禁止について
夫は「娘たちが自分に懐かないのが腹立たしかった」と述べています。
妻から「子どもたちを叱るだけでなく、褒めることも必要だ」と指摘されていると伝えると「正直、人の褒め方がわからない」と告白。
幼少期に親から批判されることはあっても、褒められたことがない経験が背景にあるとのこと。
妻が家事をきっちりしないことへの怒りについて
この怒りは、夫自身が育った家庭環境から来ており、夫の母親は父親に従順であり、夫は「妻は夫の言うことを聞くものだ」と思うようになりました。
さらに、「夫が養っているのだから、言うことを聞くのは当然だ」という認識が強くあるとのこと。
新婚時には家事に対しては気にならなかったものの、子どもが増えるにつれて「自分に全く構ってくれなくなった」「給料を渡しても感謝されない」という状況が続くと「ATMのような扱いを受けている」と怒りを感じるようになりました。
このような怒りの感情が積み重なることで、妻の家事の出来ていない部分に自然と目が行くようになったとのことです。
妻に対する全般的な思いと娘を塾に通わせないことについて
まず、妻が自分の意見に賛同しないことに対して強い腹立たしさを感じているとのこと。
結婚前、妻は塾講師をしていたため偉そうに言うことが多く、それが非常に気に障る。
さらに、自分は塾に通わず独学で勉強してきたため、塾そのものに対しても嫌悪感を抱くようになった。
服装の制限について
夫は「長女が妻に似て可愛いので、襲われやしないかと考えるだけで不安なので、1%でも確立を下げたかった。絶対に嫌だった」と述べられた。
娘が健やかに成長して欲しいという強い願望から出た行動とのこと。
妻の復職や友人と会うことを嫌がる理由
妻からの指摘によれば、復職や友人と会うことを極端に嫌がるとのこと。
この点について夫は「妻を外に出したくないから」と率直に吐露された。
妻は美人であり、外で働くことで他の男性に取られるのではないかと不安に思っているため、女友達と会わせることにも抵抗があると感じていたとのこと。
さらに、育児が一段落するたびに妻が復職を強く希望するため、子どもを作ることで妻が家から出ずに済むと考えていたことも明らかになった。
また、学生時代に付き合っていた彼女に浮気された経験があり、その影響で人間不信になっているとも告白された。
このような変容プロセスを通じて、夫は自身の行動や感情の背景を探り、少しずつ自己理解を深めていきました。
行き過ぎた愛情の歪みがモラハラになっていたことに気づいた
以上の本音を踏まえた上で、再度、現状の問題を直面していただき、自身の理想との解離について質問しました。
我々は便宜上、モラハラ被害者と加害者というカテゴリー分けをしていますが、基本的には話し合える状態であれば、我々が間に入り、問題点について話し合いを促します。
これは、復縁し今後も同居するのであれば、モラハラ行為は絶対に許されないが、子どもへの教育方針や価値観の相違については、両者の価値観を擦り合わせる作業が最も有効だからです。
夫は「子どもの幸せのために教育的指導をしていた」と主張していましたが、子どもたちは「怖い」「嫌だ」と感じていると伝えると「本当に申し訳ない」「私は親にされて嫌だったことを自分自身もしてしまっていた」「子どもからの信頼回復のために猛省する」と吐露しました。
また、妻に対する愛情や独占欲が強すぎて結果的にモラハラを振るっていたことについて尋ねると、夫は「本当に申し訳ない」「他人に取られたくない思いが強すぎたと思う」「ただ、本当に寂しかったことだけは理解してほしい」と答えました。
次に、妻からの反論です。
妻は、子どもが増えるにつれて家事も育児もワンオペで大変なのに、夫は全く手伝わず労いの言葉一つもなかったことに腹を立てていたとのこと。
この点についても、夫は「気づいてあげられなくて申し訳ない」「仕事で手一杯で余裕がなかった」「自分が構ってほしい気持ちでいっぱいだった」「今後は自分ができることからしていく」と応じました。
夫婦関係の再構築について
先ほどもお伝えした通り、我々は便宜上、モラハラ被害者と加害者というカテゴリーに分けていますが、基本的には話し合える状態であれば、問題点について我々が間に入り、話し合いを促します。
したがって、我々のプログラムにおいて、被害者の方が再構築に何もしなくていいわけではありません。
双方の訴えは公正に扱います。
ただし、被害者の方には、加害者からの訴えを聴いてもらうのは、加害者の本音を聴いてから、相手の意見をフラットに聴ける状態になってからとしています。
これは、被害者の方が基本的に心に傷を負っており、別居に至る方の多くがカサンドラ症候群(抑うつ状態)に陥っていることが多いためです。
そのため、タイミングを見計らい慎重に進めます。
先ほど、夫から「妻は夫が正しいと思っていることに全く賛同しない」「何かと上から偉そうに言ってくる」「指導的な発言が多い」という発言についてどう思うかと質問したところ、妻は「悪気はないが無意識的にそういう発言をしていたと思う」「教育者という職業柄、そうなっていたと思う」とのこと。
また「夫への日常的な不満がストレスになり、攻撃的な発言になっていたと思う」「意識的に改善していきたい」と仰いました。
また、妻は自分自身の被害者体質を自覚し、心の境界線と自身の本音を理解し、本音の話し合いが苦手ではあるが、その必要性を感じているため、できる限り行っていきたいと述べました。
このように、お互いの本音に気づき、自己理解を深め、相手を理解し、お互いの本音を話し合う方法論を身につけることで、夫婦は再構築していくのです。
その後、別居は解消され、現在は家族4人で同居しています。
夫は不器用ながらも、再構築に向けて努力されています。
まとめ
今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
今回の事例では、夫婦が離婚寸前まで追い込まれましたが、夫が自らの加害性に向き合い、至らない部分を真摯に受け入れたことで、妻からの信頼を取り戻し、最終的に復縁に至りました。
特に今回の復縁が実現した大きな要因は、夫の本音を妻が理解し、受け入れてくれたことだと思います。
また、早い段階で私たちのもとにご相談いただけたことも、非常に重要なポイントでした。
モラハラの問題は、先送りにすればするほど悪化してしまいます。
特に、妻が心身ともに疲弊してしまうと、夫の改善が見られても受け入れられなくなり、手遅れになってしまうことも少なくありません。
そうならないためにも、モラハラの問題を決して放置せず、些細なことでもまずはご相談いただければと思います。
簡単なアドバイスをさせていただきます。
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パートナーからのモラハラ被害で心身ともに疲れている方は、カサンドラ症候群になっている可能性がありますので下記のチェックリストも試して頂ければと思います。
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